大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和50年(オ)228号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人村中清市の上告理由第一点について。

売買契約における買主が売主に対してする代金支払の用意ができた旨の通知及びその受領を求める旨の催告が売主の家族で通常人の理解能力を有する者に対して口頭でされた場合には、売主本人がその内容を了知しうる状態に置かれたというべきであるから、右通知、催告は本人に到達したものと解するのが相当であり、本件において、土地の買主である被上告人の代表者から売主である上告人に対する右通知、催告は、上告人と同居する三九歳の長女に対して口頭でされたから、上告人に到達したとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

上告代理人村中清市の上告理由第二点ないし第四点、同岩石安弘の上告理由第一点、第二点及び同秋元修二の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

上告代理人秋元修二の上告理由第二点について。

債務に履行期の約定がある場合であつても、当事者が債務の履行期前には履行に着手しない旨合意している場合等格別の事情のない限り、直ちに、右履行期前には民法五五七条一項にいう履行の着手は生じ得ないと解すべきものではない(最高裁昭和三九年(オ)第六九四号同四一年一月二一日第二小法廷判決・民集二〇巻一号六五頁参照)ところ、原判決は、本件土地の買主である被上告人が履行期前であつても本件売買契約の履行に着手したのであるから、売主である上告人は、手附倍返しによる解除はできないとしているのであり、右原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。また、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて被上告人による本件売買の残代金の提供が口頭の提供で足りるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本吉勝 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例